2017年に読んだ本の中では、福井義高氏の「日本人が知らない最先端の世界史」が面白かった。
福井氏は経済を専門にしている大学教授だが、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン語に通じていて、各国の最先端の歴史論文を読み、そこから得られた知見を「日本人が知らない最先端の世界史」に反映させている。
その福井氏が2006年に出版した「中国がうまくいくはずがない30の理由」を読んでいるが、この本の中に、今をときめく移民についての記述があるので紹介したい。
その記事によると、2006年時点で既に、リベラル側からは多文化共生(!)社会の実現のため、経済界からは人手不足への懸念から、移民の受け入れに積極的な意見が出ていたことがわかる。
リベラル知識人と経済人の念頭に成功例としてあるのはアメリカだ。そのアメリカが長年単純労働移民を受け入れた結果、どのような経済効果を受けたか、労働経済学者ジョージ・ボージャスが分析しており、福井氏が紹介している。
それによると、
- アメリカは1960年代から単純労働者も移民として受け入れてきた。
- 合法の移民だけで毎年約100万人を受け入れている。
- 元からいるアメリカ人が移民から受ける利益は、年間1兆円強、一人あたり3000円程度で、元からいるアメリカ人にとっては移民がゼロになったとしても経済的影響はほぼない。
- 移民を受け入れることで賃金が低下すると、既存の労働者は損をして、移民を利用する側の経営者は得をする。なので移民の受け入れは、労働者側から経営者側への所得再分配になっている。
もちろん移民としてやってくる側は、発展途上国から先進国へ引っ越してくることで便益を受ける。そして移民の受け入れで人口が増えれば、経済の規模が大きくなり、経営者や株主はより利益が増える。
さらに福井氏は、単純移民を受け入れなかった高度成長期の日本を振り返って、
- 労働省力化を進め生産性を向上させた
- 社会的に弱い立場にいる労働者の賃金が大幅に上昇した
ことを指摘している。
先日私は、移民拒否を唱えるより、移民をカタにはめる方法を考えた方が建設的だという記事を書いたが、福井氏(及びジョージ・ボージャス氏)の著作を読んだことによって、移民受け入れに消極的になった。
上記のニュースにあるように、ローソンの社長がコンビニを外国人技能実習制度の対象にしてほしいと訴えたようだが、コンビニの店員も、(留学生という名の?)外国人労働者が来なければもっと高い賃金を得られたわけだ。他に外食産業の店員なども、本来もっと高い賃金を得られたはずで、外国人労働者受け入れの割を食っているだろう。
外国人労働者の受け入れで誰が得をしたかといえば、労働コストを抑えられた株主や経営者だろう。留学生を受け入れている学校関係者も既得権者だ。
日本人の単純労働者の賃金が上がれば、日本人の出生率にもプラスの影響力があるだろうし、治安もよくなる。多少の人口減少には目をつぶって、外国人の受け入れに消極的になったほうが良いのだろうか?
アメリカやヨーロッパで喧しいポレクティカルコレクトネスも、移民を受け入れていなければここまで欧米を苦しめなかっただろう。
福井氏が紹介しているジョージ・ボージャス教授の著作の邦訳版が2017年12月に発売された。私も注文したので、読後再度紹介するかもしれない。