先日紹介したジョージ・ボージャス「移民の政治経済学」をだいたい読み終えたので要点を紹介したい。この本のデータは米国のものだが、日本にもあてはまる部分もあるだろう。
移民は移民と同じクラスタの雇用機会を減らすか賃金水準を減らす
たとえば、高卒レベルのスキルの移民が某都市で増加した場合、その都市で高卒レベルの仕事の賃金が下がる。
ボージャズ氏は、労働者が1割増えることで、賃金は3%程度下落すると見積もっている。
著書の中で紹介されている例では、キューバの都市マリエルからマイアミに1980年、十万人を超えるキューバ人の移民が来て、マイアミの労働力人口はおよそ8%増えた。これによって、移民と同程度のスキルの高校中退者の週給は、1980年の250ドルから1985年に160ドル程度まで下がった。
他に、ソ連崩壊後、ソ連から数学者が多数米国に移住してきたが、数学の研究職の数は横ばいだったので、ソ連出身の数学研究者が増えた分だけ、米国人の数学研究者は減った例が紹介されている。
移民の受け入れにより、労働需給が緩み賃金が下落するか、単純に仕事が移民に奪われることが予測できる。
移民が国家にとってプラスになるかどうかはわからない
移民がやってくることで増える経済的利益は、移民に対する社会保障サービスの支出が多ければ消えてしまう。
ボージャス氏は、「移民がもたらす長期的な財政上の利益を推定するのは困難だ」と書いているが、日本と比べて社会保障支出が小さい米国でさえ、移民の受け入れは短期的には財政上のマイナスであるという試算を紹介している。2016年に米国科学アカデミーが行った試算では、「現在の税収と政府支出の推移が将来も続くと仮定」した場合に、移民受け入れによる75年間の財政的損失は、移民一人あたり36,000ドルだった。これは「移民が公共財のコストを増やさない」場合で、「移民が公共財のコストを増やす」という前提で計算すると、移民を一人受け入れた場合の財政的損失の試算は、119,000ドルだった。
トランプの減税法案が通った事から、2018年の今、再度試算を行えば、移民受け入れによる財政損失はもっと大きくなるだろう。
社会保障給付が米国より手厚い日本では、移民受け入れによる財政的損失の期待値はもっと大きいのではないか。
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移民の受け入れは富を労働者から企業に移転する
移民の受け入れによる正味の利益は、移民受け入れ国にとって大きくないが、移民を受け入れると、富が、移民と競合する労働者から企業へ移転する。
移民がやってくることで安い労働力が供給されれば、そうした労働者を使う企業(株主)や雇い主、サービスの利用者が得をする。既存労働者の賃金が下がれば下がるほど、こういう人たちが受ける利益は大きくなる。
米国では移民の受け入れによって増えているGDPの98%を移民が所得として受け取っているそうで、既存の国民全体への移民の経済的影響は小さいが、個々の経済的プレイヤーにとっては損得が大きく変わってくるのである。
以前も紹介したが、単純労働移民の受け入れは貧しい人をより貧しくし、富んでいる人をより富ませる可能性が高い。
米国では多くの学者が移民受け入れが肯定的なものになるように印象操作をしてきた
ボージャズ氏の著作によれば、米国では多くの学者が移民受け入れが米国にとって利益になるようなレポートを出してきた。時には統計の結果が移民受け入れにプラスの見解になるように統計をいじってきた。
それぐらい米国の学会では移民受け入れに否定的な意見を述べにくい空気があるらしい。
なのでボージャズ氏は、研究結果が本当に信頼に足るものなのかどうか計算方法までチェックしたほうがいいと書いている。
日本人の移民に対する見解が米国由来のものならば、バイアスがかかった意見を読んでいる可能性があるので注意したほうがいい。
結び
ボージャズ氏は移民受け入れに反対というわけではなく、データをありのままに見ようという立場だ。氏の著作にはここで紹介したよりも多くの移民に関するデータがあり、日本の政策を決める際にも参考になる。この記事は著作から一部の主張を切り取っているだけなので、移民がもたらす影響についてきちんと学びたい人には著作を手にとって見ることをおすすめしたい。
移民は労働するロボットではなく生身の人間だ。一度受け入れたら、帰ってもらうのは難しい。日本は人口減少下にあるからといって焦って移民を受け入れない方がいいと思う。現状は安易にビザを出しすぎているのではないか。
日本語は英語に比べてマイナーな言語なので、移民が日本社会に同化するような工夫ももっと考えなければならないだろう。
また、短期間居住しているだけの外国人に対する社会保障給付は支給条件をもっと厳格にして財政の無駄を防いで欲しい。