奇妙な人間を集団で観察する娯楽は歴史上初めて登場したのではないか

5chにはネットウォッチという板がある。ネットウォッチというのは、ネットを通じて奇妙な人を観察し、論評する行為だ。ネットウォッチ板以外の場所にも、奇妙な人間を観察しフォローする掲示板は存在するので、匿名の掲示板では幅広くネットウォッチが行われているといえる。

しかしこの奇妙な人間を多くの人間が観察し、共に味わうという娯楽は史上初めて登場した娯楽(?)なのではないだろうか。

インターネット登場以前も、私たちは特定の人間に注目し、その一挙一投足をウォッチしてきたが、その対象は政治家やスポーツ選手、芸能人、芸術家などの社会的に評価された存在だった。ヤクザやマフィアの幹部も注目されてきたが、彼らも「強い男」という意味ではポジティブに評価され注目されてきた。

しかし2000年以降のネット掲示板登場後には、弱々しく、有能ではなく、ずれた人間が全国的な観察の対象になった。それまでは特定の狭い地域の中でのみ噂され哄笑されていたような変な人間が、全国レベル(あるいは世界レベル)で共有されるようになったのである。

文学作品においては、奇妙な人間が取り上げられることもあっただろうが(たとえば阿Q正伝)、それには作者が読者に何かメッセージを伝える目的があった。

しかし、現代のネットで注目を集める変な人を見ていても、ウォッチャーにはこれといった利益はない。ただある種の娯楽のために変な人間がウォッチされるのである。あるいはその奇妙な奇妙さから目を離すことができないせいで、見るのをやめたくても見続けてしまい、その感想を誰かと分かち合いたくなるのである。私が言っている変な人間は精神を病んでいる狂人ではない。狂人や病人ではないけれど普通の人と比べると何かが欠落している変な人のことだ。