渡部昇一氏が書いたものを適当に読んでいる。渡部氏が日本の政治思想に与えた影響は大きい。博学であり、広い分野に通じている。渡部氏と今の保守言論人との最も大きな違いは、経済に関する知見だ。
渡部氏はハイエクに関する著作が複数あるように、市場の自由競争が経済に活気をもたらすことを知っていた。自由競争は結果として敗者を生み出すけれども、経済全体は活気づき元気になってゆく。
戦後の歴代総理大臣を評した著作「裸の総理たち32人の正体」でも、規制緩和を実行した人たちを評価している。三公社(国鉄、電電公社、専売公社)を民営化した中曽根康弘、郵政民営化を実行した小泉純一郎などである。
エネルギー政策に関しては、早く原発を動かすよう提言していた。原発を止めているせいで日本の国富が年三兆円失われている。原発は論理的には動かしたほうがよい。
しかし政治家は、オカルトチックな恐怖感(左派メディアが醸成したと言えなくもない)を原発に対して民衆が持っていることを知っているから、原発再稼働を強く主張していない。政治家に代わって、保守言論人が論理に従って原発擁護をしてやればいいのにと思うが、今の保守言論人で積極的に原発擁護の論陣を張る人はいない。
渡部氏は税率は低い方が経済が活気づくとして、税金は低い方がよいと主張していたが、それは放漫財政でよいという意味ではなく、小さな税収と小さな社会保障のセットがよいと言っていた。国民から広く薄く税を徴収する消費税を導入した竹下登のことも評価している。
こうしてみると、渡部氏の経済観は、今のアゴラで書いている人たちとほぼ同じであることに気がつく。アゴラと言ってもいろいろな人が書いているが、具体的に言うと池田信夫氏や城繁幸氏などである。
- 小さい政府志向
- 消費税増税賛成
- 原発再稼働賛成
- 規制緩和・民営化賛成
しかし、保守言論界に高橋洋一や上念司が入ってきてから、保守言論界の経済に関する主張は、アゴラ界隈と乖離してしまった。
今の保守言論界では
- 増税するとかえって経済成長が鈍り税収が下がる
- そもそも日本に財政問題はない
というような俗説が支配的になってしまった。
国民に対して財的・心的負担を強いる政策は、保守言論人までもが口に出さなくなった。政治家が選挙で負けることを恐れて社会保障カットや増税、原発再稼働を言えないのは理解できなくもないけれども、保守言論人までもが同様の姿勢をとるのはだらしがない話だ。
コメント
ご存じないようですが、安倍総理、麻生財務大臣、菅官房長官は3人とも政府貨幣発行論者なのですよ。つまり、高橋氏と同じです。しかし、渡部氏と同じような経済思想を持つ人が自民党には多いので、未だにそれを実現することが出来ません。