まだ若い時分の、東京で働いていた頃の事を思い出してしまった。15年以上前だ。当時の職場には、年齢も若く見た目も悪くない独身の男女が複数働いていたが、100年前であれば彼らは既に子の親になっていてもおかしくない年齢だった。
転職後、ほとんど連絡を取っていないので彼らがその後結婚したのかどうか、ほとんどわからないが、当時の私の給料を振り返れば、結婚や出産は難しいように思う。事務員の下っ端だった私は給与の手取りが20万円もなく、アパートの家賃を払い、生活費を拠出すれば、手元にほとんどお金が残らなかった。
その職場で働いていた妙齢の独身女性たちも同様の給料だっただろうから、独り身を養うだけで精一杯だっただろう。彼女たちは大半が地方出身者で、部屋を借りて住んでいた。
その職場に、ある日短大卒の元気で見目麗しい女性が入社してきた。まだ20歳で輝くような魅力を放っていた。このような魅力的な女性であるなら、20代前半で結婚して職場を去っていくのだろうと思っていたが、結局彼女が片付いたのは35歳直前だった。
普通の、男性が女性を十分に養えるだけの給料を得ている社会であれば、彼女は20代前半で嫁ぎ、30代半ばまでには複数の子を持っていただろう。
多くの地方出身の若者が、高校卒業後、大都市に出てくる。大都市の不動産は借りるにも買うにも高く、狭い。そして多数の男性は、妻を専業主婦として養えるだけの給料を得ていない。だから、結果として地方から出てきた若者の大半は、結婚に悲観し、結婚する時期を遅らせ、その生殖に適した時期を都市の拡大と資本の巨大化に貢献することで費消してしまう。
私が生まれた頃は1年間に200万人の子供が新たに生まれていたそうだが、今では100万人を切っている。
現役世代の貧しさの原因は複数あるだろう。日本には解雇規制が存在することから、たとえ社内失業状態の正社員が居ても解雇するのは難しい。そこで企業は新人の採用数を絞って帳尻を合わせようとする。正社員はリスクが高いと認識されだしたので、非正規社員として雇用されがちになる。
さらに高齢者層と若年層の人口比率の差から、若年層は高齢者の社会保障のために多くの保険料を払っており、それが手取りベースでの減収をもたらしている。
政治家が地方創生が大事だというのを聞いた時、最初はどういう合理性があるのか?と疑問に思ったものだが、人間が生物らしく生きる、つまり家族を形成して子を成して人生を終えるには、家族のサポートが期待でき、安く広い不動産を利用できる地方で生活したほうがいいのだ。
たとえ華やかな文化に触れられるのだとしても、大企業の本社で働けるのだとしても、有名大学で学べるのだとしても、都市で生きることは、人間の繁殖可能性を大幅に低減させてしまう。
大都市に建つ高層ビルは、独身のまま仕事に身を費やしてきた若者たちの墓標のようだ。彼らは自らの生殖を犠牲にして、大都市を維持発展させて、資本を巨大化することに貢献した(そして老人の快適な余生の維持にも貢献している)。昔の同僚を夢に見て思い出した時、傷ましいという感情がつきまとった。
都会でくすぶっている若い人には、地方に転進することをおすすめしたい。さらに貧しいホワイトカラー職より、実入りのいいブルーカラー職に転じてみてはどうだろうか?
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コメント
江戸時代は、エリート扱いの長男が親の土地財産を引き継いで、次男・三男は江戸に出て商家に奉公し、多くの人が一生を独身で過ごした。
都会って今も昔も同じですね。
東京の暮らしにくさは、家賃をはじめとする、その物価の絶望的な高さにあり、それは人口密度の高さに起因しています。
自治体が住みにくさを改善しようと住民サービスを拡大したら、ますます人が集まって人口密度が更に上がって堂々巡りになるので、絶対に問題を解決することが出来ない。
>竹槍さん
東京周辺の家賃は高く、しかもマンションが狭いです。4LDKでも子供を3人育てるとなると手狭ではないでしょうか?
不動産の値段だけでなく、サイズという物理的条件が少子化解決を遅らせているように思います。
問題解決には、企業に本社や工場を地方に持ってきてもらうのが一番てっとり早いでしょうか?