今日、ヨロズ(7294)社が「株主からのレター受領に関するお知らせ」というIRを公開した。内容は、村上世彰氏らから受けている様々な要求とそれに対する回答だ。
村上氏らは、買収防衛策の非継続や、利益の大幅な還元などをして株価をあげて、ROEやPBRを改善するように要求している。
しかし、ヨロズ社側の回答は、要約すると
(村上氏は)当社が利益の 100%を株主に還元し、又は、数パーセントを超えるような大規模な自社株買いを実施しない場合には、当社株式に対する公開買付けを実施する旨を繰り返し述べ(略)、上記に関する報道等が行われる中で、当社の株価が上がったタイミングで当社株式の全てを売却しております。(略)
上記のような従前の経緯及び他社事例に照らし、提案株主が、真摯に当社の中長期的な企業価値の向上を検討しているかについては非常に疑わしいものと言わざるを得ないと考えております。
である。
村上氏は企業側に、企業価値を上げ、あるいは企業価値が適切に株価に反映されるようにしろと要求するが、実際に株価が上がると売り抜けてしまうわけで、中長期的な視点で見るとまじめに企業の事を考えているとは思えないとヨロズ社は回答している。
これは確かにその通りで、最近では新明和工業(7224)で「真摯に企業の中長期的な企業価値の向上を検討しているか疑わしい」事例があった。
レノは、村上氏に近いファンドである。そのレノが、2018年5月から新明和工業の株を買い増していった。新明和工業はレノからの要求に応じたのか、増配と自己株買いを連発して株価を上げた。2019年度は、創業百周年記念配当という名目になっていはいるものの配当性向90%まで配当を引き上げている。
もともと新明和工業は無借金経営だったが、レノが保有する新明和工業社の株を買い取るために400億円を借り入れた。
レノが最初に新明和工業に対して大量保有報告を出したのが2018年5月11日で、その日の終値は1,254円だった。その後、新明和工業はレノの要求に応じて、蓄えてきたお金を配当と自社株買いで吐き出し、レノは去っていったが、今日(2019年5月9日)の株価は1,223円である!
レノが来る前(平成30年3月期)の貸借対照表は、
- 流動資産 1,385億円
- 固定資産 514億円
- 負債 650億円(有利子負債0)
- 純資産 1,250億円
だったが、それが、レノが去った、1年後の平成31年3月期(2019年3月31日時点)では、
- 流動資産 1,486億円
- 固定資産 605億円
- 負債 1,261億円(内、有利子負債496億円)
- 純資産 830億円
となった。
レノの登場によって、一時期株価は1,500円まで上げたものの、レノが去った今では、株価は前年並みに戻っている(株式市況がよくないせいもある)。一時期上げた株価は元に戻り、残されたのは前より悪化した財務諸表だけである。
得をしたのは1500円で株を買い取ってもらったレノとそれに追随した一部の投資家だけだ。
新明和工業がどうでもいい企業ならまだよかったが、新明和工業は日本の防衛産業の一翼を担う企業で、経営がおかしくなると国益を毀損する事にもつながる。
村上世彰氏が登場したての頃は、日本社会はその考え方に反意を表したが、次第に彼らの思想は日本の経済界にも受け入れられるようになってきた。村上氏の関連グループがどこかの企業の株を買っても大ニュースにはならない。
村上氏が主張するように、日本企業の経営や財務戦略には不効率なところがあって、企業価値をきちんと上げきれていなかった面もある。
しかし、村上氏の行動が等閑視されるようになった今日、村上氏の行動を追ってみると、そこには特に敬意を表したくなるものはなく、むしろ多くの日本人が嫌悪感を感じるようなものだとわかる。
村上氏らがやっていることはただの自己利益の追求で、公益に資しているとは言い難い。かつては公益に資した面もあっただろうが、今ではむしろ行き過ぎの感がある。