伝統空手が人気にならないと思う理由

2020年の東京オリンピックでは空手が正式種目に採用された。初めてのことである。

これをきっかけに伝統空手が人気になるか?といえばならないと思う。以下、その理由を挙げる。

ここでいう空手とは、極真空手ではない方の空手、寸止めの空手である。

空手の人気が盛り上がらないと思う理由1.わかりづらい

伝統空手はわかりづらい。種目には組み手があるが両方わかりづらい。

組み手の分かりづらさ

組み手とは要は打撃の試合である。しかし伝統空手の打撃は寸止めであって、ぎりぎり当てない。面や胴を狙って、突いたり蹴ったりするが、当たる寸前で止める。当てると反則である。

当てると反則ではあるが、当然、距離が遠すぎても駄目である。また、拳や足が相手の体の近くに行くだけではだめで、気合(声)や姿勢も規定にそっていなければならない。諸々の作法が整った状態でようやく寸止めの攻撃がポイントになるのである。

だから、素人にはポイントが入ったのか入っていないのか判断がつかない。

上の動画を見て、どの攻撃が有効で、どの攻撃が有効でないのか、素人にはわからないだろう。

またポイントが入ったか入らなかったかを判断するのは、人間の審判なのでどうしても、ジャッジの正確性に疑問符がつく。審判に見えにくい角度で行われた攻撃が有効と判断されなかったとか、審判によって判断が変わってくるとかといった事もある。

型の分かりづらさ

空手には、決められた動作を行って、優劣を競う型種目もある。これだって、いきなり見てどちらがうまいかわからないに違いない。

下は小学1年生同士の型の試合だ。二人ともやっている型は違うのだが、これを見て、どちらがうまいか判断できるだろうか?もちろん空手の型の見方について訓練を受ければ、どちらがうまいか分かってくるのだが、一般人には理解不能な世界である。

上の動画で、二人の競技者は別々の型を披露しているが、空手には複数の流派があり、それぞれ型が違う。だから、空手の経験者でも自分の流派の型については知っていても、他流派の型については知らなかったりする。

私がググったところ、オリンピックでは75種類の型から選んで演技するらしい。たくさん型があれば、そもそもその動作が正しいのかわからなくなってきそうである。

分かりづらさは「見せもの」としての楽しさを奪う

こうした分かりづらさが、見る対象としての空手競技の魅力を減じてしまうように思う。

キックボクシングや極真空手、相撲、柔道のような素人が見てもどちらが勝ったか分かるような分かりやすさが伝統空手にはない。だからスカッとしない。

ショービジネスというより、茶道や華道のような「道」であって、その世界に通じた人だけが楽しめるマニアックなものになっているように思う。

空手の人気が盛り上がらないと思う理由2.実戦性に疑問符が付く

格闘技を習う動機の一つは、それが護身術になることである。悪い奴に襲われた時に身を守れるようにと、親は子に格闘技を習わせたりする。

しかしスポーツ空手(寸止めの伝統空手)は、実際にストリートファイトになった時にどれくらい強いのかよくわからない。もちろん何も格闘技を習った事が無い人間よりは有利には違いない。しかし、極真空手や柔道やキックボクシングを習った相手に勝てるのかといえば、難しいように思う。

なぜなら寸止めで組み手の練習をしているので、実際の喧嘩とは環境が違いすぎるからだ。スポーツ空手にはローキックもない。またポイントが入ったと審判が判断するたびに審判から「止め(待て)」がかかり、試合が中断される。これは現実の喧嘩とも、その他の打撃系格闘技とも大きく異なる。

もちろん道場や流派によっては、実戦性を意識して練習している。

群馬県の山奥で熊と遭遇した空手経験者が、熊の目に抜き手を突き刺して撃退したニュースがあったが、これなどは実戦性が活きた例である。

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しかし純粋な強さを求めるなら、あるいは格闘家になって、K-1などで身を立てたいなら、スポーツ空手を選ぶよりは、他の格闘技を選んだほうがよさそうである(堀口恭司氏は伝統から手をやっていたそうだが・・)。

空手の人気が盛り上がらないと思う理由3.試合の運営が大変

空手の動画を見ていただければ分かる通り、空手には審判だけで5人が要る。その他に電光掲示板にポイントを表示させたり、試合結果を記録したりなど様々な運営補助員が必要となる。

だから空手の試合にはたくさんの大人の人手が必要になる。

空手の試合で審判をするには資格が必要で、なおさら人手が足りなくなったりする。高齢化が進む日本で空手大会の運営に必要な人員を確保し続けられるのか疑問である。

空手の人気が盛り上がらないと思う理由4.安全そうでいて怪我をする

スポーツ空手は極真空手と違って寸止めなので怪我をしないのではないか。怪我をせずに格闘技のさわりを経験できるならいいことなのではないか、と思われそうだが、寸止め空手でも怪我は少なくない。

まず寸止めといっても、お互いが動きながら試合をしているのだから、うっかり打撃が当たってしまう事がある。防具はしているが、防具の上からでも頭に衝撃を受けるとつらい。また防具が無い部分に蹴りが入ることもある。

さらに空手のプレイヤーには悪質な人間もいて、試合で勝ち目が無いくらいポイントがリードされた場合、残り時間で、腹いせにわざと当てて来ることがある。接近して戦うので、故意に当てられると避けられない。

なのでスポーツ空手も結構怪我をするのである。

以上、新たにオリンピック競技となった空手について、今後人気がでるかどうか分析をしてみた。