個人投資家市場を引っ張ってきたゲーム銘柄
この数年、株式市場において個人投資家を熱中させてきたセクターは「スマホゲーム銘柄」だろう。ガンホー、ミクシー、コロプラ・・、複数の企業が業績をハイスピードで成長させてきた。それとともに株価も上がり、個人投資家間に「億り人」を多発させたのであった。
ゲームは、個人投資家にとって身近な存在であるし、売上を推測できる資料も多かった。app storeやgoogle playで確認できる日々の売上ランキング、ゲーム企業の開発ラインについての情報、事前登録数、ダウンロード数。
これらの売上を推測できる資料が、相場を動かす「材料」にもなり、ゲーム銘柄は、市場を盛り上がらせる適度な刺激に事欠かなかった。
しかし、現状では、ゲーム銘柄相場も一段落ついた感じである。今後、新たな大ヒットゲームは再び出てくるであろうが、それはおそらく大手ゲーム企業からリリースされるもので、ゲーム企業の時価総額順位に変動を生じさせるような若い企業からリリースされるものではないだろう。
大個人投資家もカバー仕切れていなかったバイオ銘柄という領域
ゲーム銘柄が落ち着いた今、市場で流行っているのは、自動運転やフィンテックといった新しい技術を連想させる銘柄である。しかし、これらの企業が具体的にいつ、どれくらい利益をあげられるようになるのか、確かな分析は少ない。このテーマ株相場に参加している投資家の言動からは、「遊び」と割り切って投資している様子がうかがえる。この相場への熱気もじょじょに冷めていくはずだ。
では、次にゲーム銘柄の代わりに個人投資家を魅了するセクターは何かというと、少なくともその一部はバイオ銘柄だと思う。なぜなら、
- バイオ銘柄は、投資家に十分精査されていない
- 研究開発段階の終盤を迎え、収穫の時期が近づいている企業が増えている
からだ。
バイオ銘柄が、十分に投資家から評価の対象になっていないということについては、例えば、ファンダメンタル分析で大成功を収めている投資家、五月氏の先日のブログ記事に
話を大きく戻そう。私は若者にそーせいに関する重大なヒントをもらっていた。だが、その蓋然性はおろか、可能性についてさえ検討することを怠った。どうせ日本のバイオ株に本物はないという思い込みから、巨木の苗を手にする機会を自ら手放したのだ。
という記述があったことからも、その一端が伺える。五月氏でさえ検討していなかったのだから、多くの個人投資家はバイオ企業の価値について真面目に考えてこなかったのではないだろうか?
また、四季報の大株主検索機能を使って、勝手に大個人投資家がどのような銘柄に大きく投資をしているかチェックしているが、ポートフォリオにバイオ銘柄を入れている人は少ない。五味大輔氏がそーせい、志野文哉氏がメドレックスの大株主に入っているくらいだ(柿沼佑一氏他は別評価でお願いします)。
これはやはり、バイオ企業が「虚業」「インチキ」のように見られており、個人投資家から十分な検討をされてこなかったからだろう。
これには、一部の例外を除いて、これまで日本のバイオ企業がしっかりとした実績(薬の上市から来る売上及び利益の計上)を示せなかったことにも一因がある。しかし、2016年以降、いくつかのバイオ企業は、開発の最終段階を迎え、収穫の時期に近づいていく。なのでこうした状況は今後変わっていき、バイオ銘柄は優秀な個人投資家の評価の対象になっていくだろう。
ゲーム銘柄とバイオ銘柄の類似性
ゲーム銘柄とバイオ銘柄には似ている面がある。それは、商品の開発から売上に至るまでのプロセスが、どの企業も基本的に同一のプロセスをたどる点だ。
ゲーム銘柄であれば、
- ゲーム名とゲームの概要の告知
- 事前登録(事前登録数の発表)
- リリース
- アプリの売上ランキングに載る
- ダウンロード数の発表
- 短信から売上高や利益を類推
といったプロセスをたどる。
バイオ銘柄であれば、
- パイプラインの存在の発表
- 前臨床試験
- 1相試験
- 2相試験(前臨床試験から2相試験までの間に導出があるのが普通だ)
- 3相試験
- 承認申請
- 販売
- 短信から売上高や利益を類推
といったプロセスをたどる。
こういう様式化したプロセスをたどるセクターは、いったん投資家に慣れられると、各進捗段階が「材料」として扱われるようになり、短期の投資家も参入しやすくなる。
次の進捗への発表がいつあるか、試験の結果がどうであるか、上市した薬がどれくらい売れるか、ロイヤリティーが何%かなどについて、個人投資家は駆け引きを巡らせていくと思う。
バイオ銘柄のわかりづらさ、投資しづらさ
一方で、バイオ銘柄には、ゲーム銘柄と較べて投資しにくい面もある。
- 数年後に達成される売上や利益を現段階でどのように評価すればいいかわかりにくい
- 試験を突破する確率がどれくらいかわかりにくい
- 薬が上市されたとして、どれくらい売れるのかわかりにくい
- 外国企業も含めた同業他社の動向がわかりにくい
- パイプラインの開始から売上まで長い年数がかかる
まず、数年後に達成される売上や利益を現段階でどのように評価するかがわかりにくい。ゲーム企業であれば、ゲーム名の発表から販売までにかかる期間は半年ほどが普通であった。なので、そのゲーム企業が達成するであろう売上や利益からEPSを計算して、PERなどの指標で大まかな目標株価の範囲を推測できた。
しかし、バイオ銘柄の場合、開発から販売まで7-10年かかるのが普通である。特定のパイプラインが1相まで、あるいは2相、3相試験まで進捗している企業を、現段階でどのように評価するのか?個人投資家間にこれといった合意は無い。バイオ企業のように、薬の上市によって、ある時から利益水準が急激に変わる企業をPERで評価するのはおかしい。なので、DCF法で評価するのが適切だと思われるが、その場合、割引率を何%に設定するのか?という問題が生じてくる。
バイオ銘柄は、上述したように前臨床から1~3相試験を経て、薬の上市に至るのだが、それぞれの段階を突破する確率も外部者にはわかりにくい。過去の平均データは存在するが、パイプラインごとに見込みは違うはずであって、平均データの確率を当てはめるのは不正確だろう。
また、薬が上市したとして、それがどれくらい売れるのかも個人投資家にはわかりにくい。米国で販売されたらどれくらい売れるのか、アジアではどれくらい売れるのか、ライバル企業が同種の薬を販売した場合、売上にどのような影響を与えるのか?といったことがわかると企業価値を分析しやすいが、普通はわからない。
専門誌を読みこめば、こういったことに対して知見を持てるのだろうが、日経バイオテクなどの専門誌は年間料金が17~25万円して個人には手をだしにくい。
開発から販売まで長い年月がかかるというのも個人投資家には手を出しにくい要素だ。効率良く資金を巡回させたい、というのが個人投資家の願望なので、企業の努力が結実するまで数年かかるバイオ企業を敬遠する投資家もいるだろう。
バイオ企業に投資しやすい環境ができていくはず
バイオ企業について、ゲーム銘柄と似ていて投資しやすい点と、投資しにくい点を挙げたが、今後収穫が上がっていくよく知られていないセクターはバイオ企業くらいなので、今後このセクターへの投資が賑わっていくのは間違いない。
バイオ銘柄へのわかりにくさは、今後、誰かが埋めていくだろう。バイオがわかるアナリストやライターの増加、簡便な企業価値の評価法の確立といった具合にだ。個人が、バイオ企業について知りたいことがわかるように、バイオ企業の短信や決算説明資料に対して、独自の規則が制定されるかもしれない(想定される薬の売上規模や、同業他社のライバル薬の動向について記述するなど)。バイオ企業について知りたいという需要が生じるのだから、何らかの供給が生じるはずである。
四季報オンラインの「大化け”創薬ベンチャー”を探せ!」という連載もそういった供給の一種だろう。
バイオ企業が収穫期に入るにあたって、個人投資家のバイオへの知識も加速度的に増えていくと予想している。