鈴木傾城氏の小説を読んでみたが素晴らしかった。
氏の実体験を反映しているのかどうかよくわからないが、主人公は貧しい国の売春地帯をうろつく一人の男だ。友達もなく、スラムの売春地帯を彷徨い歩いて常習的に女を買う。
「スワイパー1999」はカンボジアを、「コルカタ売春地帯」はインドを舞台にしている。どちらの小説に出てくる売春婦も、自由意志とは程遠い状態で売春を強いられている。今現在もひどい環境下にあるし、未来の見通しも暗い。いくら働いても自分の元にはお金が残らないし、脱走することもできない。学もなく、字も読めず他の仕事もできない。病気を避ける術ももたず、病にかかったら死ぬだけだ。
病にかからずとも理不尽な暴力を受けてあっけなく死ぬこともある。客も、雇用主も女衒も躊躇なく暴力を振るう。
この世界で誰にも知られずに苦難の人生を生きて、誰にも知られず死んでいく。苦難の人生を送ったからといって、それに対する何らかの褒美があるわけでもなく、売春婦を使って儲けた人間にばちが当たるわけでもない。
個々の命が誕生して消えていくまでの有り様は、ここで語られる娼婦の一生のように、ぞんざいで乱暴でデタラメであっけなく、意味のないものだ。日本のような先進国で暮らしていると、命が消費されるまでに仰々しい説明がついてまわるが、それは一時的な、たまたまの現象に過ぎない可能性がある。
小説の内容(素材)だけでなく、作者の文章力も素晴らしい。何かの賞をとってもおかしくない出来だ。
※鈴木氏のキンドル本になっている小説を4冊読んだ。以下、面白いと思った順ランキング。
1位 スワイパー1999
2位 コルカタ売春地帯
3位 ストレッチマーク
4位 グッドナイト・アイリーン