サンバイオ脳梗塞1/2a試験論文を読む

私の主要な投資先の一つである、サンバイオの臨床試験に関する論文を今回は読解してみたいと思います。私の英語力(特にバイオの専門用語)は拙いレベルですので、勘違いもあるかと思いますがよろしくお願いいたします。

論文は、こちらのサイトから概要を無料で読むことができ、全文は35ドルで読めるようになります。

6月3日に、サンバイオのニュースに、「脳梗塞を対象とした米国フェーズ1/2a試験の投与後12ヵ月経過時の結果をStroke誌に発表」という文章が発表されました。

この文章によると、

本試験は、患者 18 例を対象とした非盲検単回投与試験であり、対象は、脳梗塞発作後 6 ヵ月以上が経過した運動障害を有する慢性期の患者で、3つの異なる用量グループに分けられ実施され、

今回のデータにより、European Stroke Scale、National Institutes of Health Stroke Scale、FuglMeyer Total Score 及び Fugl-Meyer Motor Function Total Score など多くの有効性評価項目において、本剤投与後 12 か月を経過した患者 16 例について、統計学的に有意な運動機能の改善が示された

そうです。薬の副作用に関する安全性については、

本試験における本剤の投与は安全でかつ忍容性は良好でした。すべての患者で本治療に関連する軽度の有害事象が報告されましたが、そのほとんどが頭痛であり、本剤を起因とする重篤な副作用の報告はありませんでした。

とのことですので、特に問題視せず、有効性(薬の効果)について書かれた部分を読み、紹介していこうと思います。

試験結果と各試験の概要

まず、試験参加者は18人で、平均年齢は61歳でした。男性7人、女性11人です。人種は、白人12、黒人1人、アジア系5人でした。脳梗塞を患ってから半年以上経っている患者です。このうち、試験後の12ヶ月のfollow-upを受け終えたのは16人で、2名は取りやめてしまった(2 patients had withdrawn)ようです(内1名は外国へ引っ越したようです)。試験参加者は3グループにわけられて、SB623をそれぞれ250万、500万、1,000万単位投与されました。

さて、SB623を投与された慢性期脳梗塞の患者が、どのように、どれだけ回復したのかをこの試験では複数の評価方法で測定しています。

その各評価法とその評価方法での改善度を論文から拾って書いていきます。

試験方法

ESS(European stroke scale)

概要がこちらにあります。試験項目は、level of consciousness (意識の覚醒具合)、comprehension (理解力)、speech(会話力)、visual field(視野)、gaze(眼球のポジション)、facial movement (顔面麻痺)、arm (ability to maintain
outstretched position) (腕を伸ばしていられるか)、arm (raising) (腕をあげられるか)、extension of the wrist (手首の動作)、fingers (指の動作)、leg (maintain position) (脚を一定の位置に保てるか)、leg (flexing) (脚を屈曲できるか)、dorsiflexion of foot (脚の背屈)、gait (歩行)があります。

点数はゼロから100点までで、健康な人であれば100点になります。点数は高ければ高いほどいいです。

NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)

概要がwikipediaにあります。評価項目は、意識、注視、視野、顔面麻痺、四肢麻痺、運動失調、感覚障害、失語、構音障害、消去現象と無視からなるようです。

こちらは最大42点で、重症になればなるほど点数が高くなります。

modified Rankin Scale (mRS)

こちらのサイトの説明が詳しいです。細かく評価項目を分けて総合点を出すのではなく、トータルで見て、評価者が点数をつけるようです。

点数はゼロ(健康)から6(死亡)までの7段階にわけられています。※画像をお借りしました。

modified ranking scale

Fugl-Meyer (F-M) score

こちらのサイトによれば、Fugl-Meyer Assessment(FMA)は、上肢,下肢それぞれについて運動機能,感覚機能,バランス機能,関節可動域および関節痛の5項目を評価し、点数は0から226点になるようです。点数は多ければ多いほどいいです。

論文には、Fugl-Meyer total scoreとFugl-Meyer motor function total scoreが出てくるのですが、両者が上記のFMAと同じなのか違うのかよくわかりませんでした。

事前の点数と、SB623投与後の点数

上記の各評価試験の事前の点数と、SB623投与後の点数を較べていきます。カッコの中の数字は、変化した数量です。

ESS(European stroke scale)

投与前平均値 58.44

投与後平均値(6ヶ月後) 64.94(+6.5)

投与後平均値(12ヶ月後) 65.32(+6.88)

※100点満点

NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)

投与前平均値 9.44

投与後平均値(12ヶ月後) 7.44(-2)

※42点満点

Fugl-Meyer (F-M) score

F-M total score

投与前平均値 133.61

投与後平均値(12ヶ月後) 152.81(+19.2)

※226点満点

F-M motor function total score

投与前平均値 30.44

投与後平均値(12ヶ月後)41.84(+11.4)

modified Rankin Scale (mRS)

変化が見られず。mRSで変化が見られなかった理由について、下記のように書かれています。日本語は私が書いたものなので、いい加減です。

Correlation of improvements of clinical outcome end points with cell dose levels did not show any clear dose–response relationships. There was no association between improvement in clinical outcome measures and either baseline stroke severity or baseline patient age.

試験結果の改善度合と、細胞(SB623)の投与度合の相関にはっきりした関係が見られなかった。試験による改善度合いの指標と、脳梗塞の深刻度や患者の年齢に結びつきがなかった。

その他、論文には月ごとの各指標による変化の度合いがグラフになって記載されています。このグラフを見ると、ESS、NHSS、FMAの各試験で時間が経つほど指標が良化していることがわかります。

2b試験の評価項目

現在、SB623の脳梗塞は2b試験に入っています。この試験では、どのように試験結果を評価するのでしょうか?試験のデザインはこちらで確認することができます。

プライマリーエンドポイントとして、

Proportion of subjects whose Fugl-Meyer Motor scale (FMMS) improve by ≥10 points at Month 6 from Baseline

が挙げられています。これが、1/2a試験論文中のF-M motor function total scoreと同じなのであれば、前回と同じくらいの結果が出れば、薬に有効性があることになりそうです。F-M motor function total scoreは、1/2a試験では12ヶ月後で11.4ポイント改善しています。

同ページには、Secondary Outcome Measures(副次的評価項目?)が多数記載されています。この中にはmRSも含まれています。

試験の結果をどう見るか

この論文をどう受け止めるといいのでしょうか?

ここから書く私の意見は、ただの素人の戯れ言ですので、サンバイオに投資を考えている方には自分でもアレコレ考えて見て欲しいです。

まず、mRSで改善が見られなかった点については、試験の性質上それほど心配しなくてもいいのかなと思います。評価軸が他の試験に較べて定量的でなく、曖昧に感じられます。

2相試験を無事突破できれば、日本では3相試験を経ずに上市できる可能性があります。なので、2相試験の結果がサンバイオの企業価値を大きく変えることになると思います。

ただ残念なのは、日本での脳梗塞2相試験は帝人が担当しているのですが、開始されていません。ですので、仮に脳梗塞2b試験でいい結果が出たら、それから間もなく結果が出る外傷性脳損傷2相試験の結果に期待がかかるのかなと思います。こちらは、サンバイオ自身の手によって、日本でも2相試験が行われています。

しかし、外傷性脳損傷については、脳梗塞のように投与データが論文としてオープンになっていません。なので仮に脳梗塞の試験結果がよくても、外傷性脳損傷脳損傷の試験結果がいいとは限らないと思います。

サンバイオの創業科学者である岡野栄之氏が書いた著作は、再生医療を考える上で役に立つと思いますのでおすすめです。

コメント

  1. けん より:

    こんばんわ。
    私もサンバイオには随分期待し、保有割合も結構多くなっていました。
    しかし、正直このブログ(かきゆうさんで知りました)を拝見し、また調べた結果、夢のようなSB623が本当に効果があるのかかなり不安になりました。。。
    この1/2aのスコアでⅡ相のプラセボを対象としたスコアがそれ以上に良い結果が出るのかが疑問です。。。
    この結果では正直改善は難しいのではないのでしょうか?
    動画などでは随分と良好な改善が見られるものが紹介されてますが。。。
    少し自信が持てなくなりました。

  2. nextir35 より:

    けんさん
    こんにちは。わたしもかきゆうさんのブログのファンです。
    慢性期脳梗塞って、脳梗塞を発症してから六ヶ月経っていますよね。
    脳梗塞の場合、六ヶ月経過後はプラトーに入っているんですよね?なので、プラセボ効果だけでFugl-Meyer Motor scaleの点数を改善するのは難しいのではないでしょうか?(素人考えですが)。
    Fugl-Meyer Motor scaleは、体の実際の動作をチェックする試験ですので。
    私は試験論文を読んで、かつプライマリーエンドポイントを確認して、2b試験はイケるのではないかと思うようになりました。

  3. けん より:

    なるほどそうですよね。
    逆に動作の検査だからこそプラセボ効果とはハッキリと明暗が分かれそうですね。
    たいへん勘違いしていました。
    イケそうですね。

  4. 長崎洋子 より:

    脳疾患の治験をするなら、是非参加したいです。よろしくお願い致します。

  5. nextir35 より:

    >長崎さま
    サンバイオのウェブサイトから申し出た方がいいですよ。このブログはサンバイオとは無関係です。

  6. Pのヒゲ より:

    僕はサンバイオの治験に登録でき、2016.11に東大病院まで行ったのですが、今回は交通事故などの外傷性という縛りがあるということで、--僕は脳溢血の自発性出血ですのでーー治験を断られました。
    が、そのときの今井先生の「Sb623は奇跡的な薬剤だ」と評価されていたのは印象的でした。
    ただ、今では今回の治験は二重盲検ですので頭蓋骨に1cmもの孔を空けられてプラシーボに当たったことを考えると、2年待って許可になってから手術を受けたほうがよかったか、と考えるようになりました。少しは悔しいですがネ。

  7. nextir35 より:

    >Pのヒゲさま
    貴重な体験談ありがとうございます。

  8. Pのヒゲ より:

    Pのヒゲです。
    前回のコメントで言い忘れたことを3つほど追記させてもらいます。
    先ずは
    1.この記事を載せてくれた、Nextir35氏に感謝、感謝です。こんなペーパーは素人では絶対無理。労作、ありがとうございました。
    2.サンバイオの18例の治験では身体のシビレについて記載されていないのが残念。僕は左半身のシビレがすごく、目が開いたらシビレで悩んでおります。ただ、知らぬ間に寝付いてますし、好きなことをやってるときは何とか忘れて耐えられるのが、幸いです。
    3.SB623の許可見込みについて。
    2016.10から国内治験が始まっており、6ヶ月(の観察期間、ちょっと短いか?)後の2017.4には治験は終わって、観察期間を見て、1年でペーパーにまとめたとすると、2018.4月には治験は完了。今回の治験は異例の速さの申請4ヶ月で受理されていること、今回のフェーズ2で結果がよければサンバイオのスタンフォード大18例の本レポートもあり、フェーズ3にかかる前に許可との観測もある様で、その後の審査期間を半年とすると、もしかしたら僕は来年、2018年にも許可されるのではと、希望的観測をしています。
    今の僕は自己責任ででもSB623の治療を受けたい心境ですので、当局の英断を期待しています。

  9. nextir35 より:

    >Pのヒゲさん
    コメントありがとうございます。以前、サンバイオのIR担当の方に問い合わせたことがあるのですが、最後の患者にSB623を投与してから、結果がでるまでに2年程度かかるそうです。

  10. よっちゃん より:

    検索エンジンからたどり着きました。当方外傷による脳出血を14年前に起こし、身体のマヒと高次脳機能障害があります。

    治験にエントリーして、大学病院に行くように電話がありましたが、自分がプラセボに当たる可能性があるという認識がありませんでした。プラセボのために頭蓋骨に穴を開けるなんて割に合いませんね。

    貴重な情報ありがとうございました。