ピーター・ナヴァロ「米中もし戦わば」は米国でどのように受け止められているか?

対中強硬派で米国国家通商会議の委員長に選ばれたピーター・ナヴァロの著作「米中もし戦わば」(原題「Crouching Tiger: What China’s Militarism Means for the World」)はアメリカではどのように受け止められているのか、気になったのでアマゾンUSAの評価を見てみた。

日本では、ナヴァロの著作はおおむね好評だと私は考えている。私自身も、中国の軍事的な脅威について氏の著作から多く学んだ。一方で、ナヴァロが提唱する政策は経済学的な観点からは低く評価されている。では、本国の米国ではどうなのか?

アマゾンの書評を翻訳して、「米中もし戦わば」が米国でどのように受容されているか概観してみたい。

まずは評価状況の図。かなり好評ではないだろうか?

米中もし戦わば評価

最初はトップカスタマーレビューの翻訳。34人中31人がこの書評を役に立ったと判断した。

an investigation into China’s rise

正直言って、最初にこの本について聞いたときは少し懐疑的だった。過去に中国を悪魔のように描き、彼らの米国に対する脅威を誇張した本を読んだことがあったから。幸運なことに、ナヴァロは(それらの本の著者より)もっとバランスのとれた、冷静なアプローチを取っている。ナヴァロは注意深く反論やその他の観点を考慮しながら中国が発展することによる固有のリスクを概観している。

ナヴァロは著作を探偵小説のように組み立てている。最初の問いは、米国と中国が戦争に向かっているかどうかである。すべての章が複数の選択肢からなる問いかけから始まっている。そして、ナヴァロは問に答えるためのエビデンスを提供していく。これは有用なアプローチだと思う。特に国際情勢に詳しくない読者にとって。問題を解くための演繹的なアプローチである。

政策おたくは、ナヴァロの本を読むことでおそらく利益を得られるだろうが、この本は一般大衆に最も適していると思う。ナヴァロは、抽象的な概念と特定の兵器の戦略的な利得を説明するのが上手い。ナヴァロは、彼の説明した事柄を明確に、そして非専門家にもついてこれるように説明している。この本では、ナヴァロは自身を中国の専門家ではないと断っているが、アジアに関する対外政策に対して専門的に機能しているし、ニュースも追いかけている。私も中国の軍事能力について多少学ぶことができた。

上記したように、私はナヴァロは中国に対して公平に書いていると思う。彼は中国の台頭を明確にリスクとしてみているが、悪魔のように描いているわけではない。彼はほとんど中国の人権軽視について言及していないし、それらを中国への嫌悪を煽るために使用していない。ナヴァロは、中国の観点から中国の行動を理解することに時間を費やしている。たとえ中国の行動が実際に攻撃的で脅威であると結論づけられているのだとしても。

(中略)ここそこに多少の誤りがあるにもかかわらず、ナヴァロの著作は、中国の台頭について、合理的なタカ派の観点を提供している。私はこの本をおすすめしたい。特に、あなたが米国の国防と中国の関係についての入門書を探しているのであれば。

次は21人中19人が役に立ったと判断した書評。

In Crouching Tiger: What China’s Militarism Means for the

ピーター・ナヴァロは読者に、米中関係について掘り下げた分析を提示してくれる。ナヴァロはこの二国を強調しているけれども、彼はこの状況が他の国に及ぼす影響も説明している。彼が言うところの「探偵小説的アプローチ」を用いて、ナヴァロは中国が平和的に台頭しようとしているのか、それとも何か別のことが企まれているのかという問いに答えを出そうとする。この本はそうった方法で書かれているので、最近の中国のニュースに接していない人でも最小の混乱でついていくことができる。

次は17人中16人が役に立ったとした書評。

I would recommend this book to readers who are interested in the

ナヴァロのこの新作は、中国軍の複雑な細部と現代行われている経済的な戦術について読者を教育している。この著作は、歴史についての記録であるのと同時に、有用な書物であり、この分野について知識の無い人にも新しい多数の知識を与えてくれる。探偵小説的な手法は、非中国人の視点から書かれているけれども、これを読んだ人は、この本を書くために行われた機略に優れた調査から、新しい何かを確実に学ぶことができる。私はこの著作をよく知られた経済学者(ナヴァロのこと)だけでなくカルフォルニア大学アーバイン校の仕事に興味がある人にも勧めたい。この本を読むことは、米中関係について新しい洞察を得るだけでなく、私達を教育してくれる教授について知るいい機会になる。

次は23人中20人が役に立ったと評価した書評。

Good Mix of Historical and Contemporary Analysis

ピーター・ナヴァロは巧みに中国の歴史と世界の出来事、経済、アジア政策、地政学を統合している。そしてそれは読者を「中国との戦争は差し迫っているのか?」という問いへの深い分析に案内してくれる。この問いは我々の政府(※2015年11月に書かれた記事なのでオバマ政権のこと)に広く無視されるか否定されているが、中国がその強大な軍事能力を強化し続け、アジア地域で自らの卓越ぶりを見せつけ、潜在的に米中関係の繊細な均衡をひっくり返しかねないという問題を提起するために必要なものだ。中国が過去に侵略された事実に基づいて、なぜ今軍事力を増大させているのか、よく分析している著作だと思う。この著作は様々な武器や兵器についてのテクニカルな記述が多いかもしれないが、このことはアジア地域に興味がある個人に高く評価されるかもしれない。この著作は、軍事に興味がある人だけでなく、中国と、世界において増大しているその影響力について概観を得たい人にもガイドになる本だ。

次は27人中23人が役に立ったとした書評。

A mystery worth knowing more about!

私は、これは完全にアンチ中国本だなと考えながら読み始めたが、公平なやり方で米中両サイドのストーリーを提供しているので驚いてしまった。要約が提示しているように、この本は地政学的な探偵ストーリーである。この本が解こうとする主要な謎は、「中国との戦争が起こるか?」である。ナヴァロは、この話題の初心者も簡単に理解できるような方法で彼のエビデンスを提示している。彼が提示するエビデンスは、多少バイアスがかかっているように見えるが、ほとんどのパートで、中国が米国との戦争を非常によく準備しているというテーマを説得的に提示している。

全体的には、この著作は中国が計画しているものを非常にアメリカナイズした観点で提示していると言いたい。中国は内部事情を秘しているので、この本が中国の本当の計画を予測できていると信じるのは難しいことを読者は意識しながら読むべきである。その点を除けば、この本はアメリカ人にとっての必読の書である。なぜなら、中国を制御するという点においてアメリカは間違ったことをしていること、それが将来のアメリカのグローバルパワーにどんな影響を与えるかについて多くの洞察を与えてくれるからである。

最後は、この本にもっとも否定的な書評を紹介したい。

Crouching hawk(星ひとつ、54人中32人がこの書評を有用だと判断した)

私はこの著作に星一つをつけていた以前のレビュワーに同意である。この本について公平でいることは難しい。4つ星か1つ星が妥当だと思われる。この本はおそらく30人以上の専門家へのインタビューに基いている。しかし、どの部分の引用が、どの専門家が言ったことなのかはっきりしない。はっきりしているのは、彼ら専門家が全てアンチ中国の専門家であることだ。各章の先頭に提示されている問いは、読み込まれている(loaded)だけでなく偽善的である。たとえば、39章では、ナヴァロはこのように問いかけている。「問題:透明性、交渉、法による支配にたいする中国の姿勢について、最も正しい記述を選べ。1、緊張を最小化し、判断ミスを避けるため、直接対話を望んでいる。2、自国の軍隊の能力を公表する際、透明性を重視している。3、二国間協議よりも多国間協議を好み、自分よりも小さな国々に影響力を及ぼそうとはしない。4、国連や世界貿易機関など国際組織のルールに厳密に則って行動している。5、交渉結果を遵守してきた実績がある。6、1~5のいずれも正しくない。」解答は、6の1~5のいずれも正しくないである。もしアメリカと中国を入れ替えれば、同じことが言える。ただアメリカだけが、ここで描かれた中国の巨大版だと言えるかもしれない。

(中略)これは新しい中国バッシングの本ではない。これはドナルド・トランプの声のように読める。この著作は米中両国にとって害悪である。

この書評についてのコメントには以下のようなものがあった。

ナヴァロはタカ派かもしれない。そしてもしかしたら彼は危険性を誇張しているのかもしれない。しかし、私が思うにあなたは明らかに危険さを過小評価している。私は歴史家であるが、私が歴史の研究から学んだことがあるとすれば、それは「歴史は楽観主義者を失望させる残酷な手段を持っている」というものだ。

終わりに

ナヴァロの著作は、米国においても好意的に受け入れられているようだ。オバマ政権は、中国に対してかなり腰砕けだったので、その後継者とみなされたヒラリーの敗北(ヒラリーは対中強硬派らしかったが)にもこの著作が影響したのかもしれない。