胸糞が悪くなる錬金術「世帯分離」

世帯と世帯分離

世帯とは国の通達によれば「居住および生計を共にする者の集まり、または単独で居住し生計を維持する者」となっている。世帯を分離するには、生計を共にしていなければよい。生計をともにしていない条件が具体的に決まっているわけではないが、太田哲二氏の見解によれば

  • それぞれにそれなりの収入がある
  • それぞれに銀行通帳がある
  • 食事を別々に食べることが多い
  • 表札は別々にある

だそうだ。世帯分離は役所に申請すれば簡単にできる。異動届(自治体によって名称が異なる)を提出すればよい。その際、社会保障負担減少が目的と告げると断られることが多い。[adsense]

ちなみに同一住所の夫婦でも世帯分離は可能である。

介護保険と世帯分離

介護保険料は、本人の収入と他の世帯員の収入によって決定される。本人の所得が低く、他の世帯員の収入が課税対象である場合、本人の世帯を分離すると介護保険料が安くなることがある。

介護保険料

東京都中野区の例だと、65歳以上の人が特別区民税非課税で年金収入と合計所得金額の合計が80万円未満だとすると、同一世帯内に特別区民税課税対象者がいる場合、介護保険料は年額53,700円(第四段階)となるが、一人世帯主となると、年額34,700円(第二段階)で済む。

サービス費、居住費、食費

介護施設を利用した場合、介護サービス費の1割と、居住費、食費を負担することになる。

介護サービス費の1割負担には、世帯の区分ごとに負担上限額が定められている。中野区の場合、一般世帯の負担上限額は、月37,200円だが、合計所得金額と課税年金収入額の合計が80万円以下の方にあてはまると、15,000円となる。仮に、施設サービスを月に30万円分利用していたとしたら、自己負担額は1割の3万円であるが、負担上限額が15,000円となれば、半分の15,000円は返ってくる。収入の低い老人が、世帯分離すると後者にあてはまるわけである。

また施設に入所すると、居住費と食費を負担することになるが、この金額も一般世帯と低所得世帯で差がある。旭市の場合、一般世帯の人が個室に1か月入所すると、(食費1,380円+居住費1,970円)×30日=100,500円かかる。これが、利用者負担額が第二段階(合計所得+課税年金収入額が80万円以下の人)になると(食費390円+居住費820円)×30日=36,300円で済んでしまう。

介護保険の負担上限額は、世帯単位で決まっているので、家族に要介護者が2人以上いる場合は、下記のように世帯を分離すると得で

  1. 要介護者A+要介護者B
  2. 普通の人

下記のように分離すると損になってしまう。

  1. 要介護者A
  2. 普通の人+要介護者B

国民健康保険と世帯分離

国民健康保険料

国民健康保険料は、所得が一定基準以下であるならば、応益割(均等割、世帯平等割)が減額となる。国民健康保険の賦課対象は、応能割(所得割、資産割)と応益割(均等割、世帯平等割)に分かれていて、後者の部分が減額になるわけである。

このときの所得は世帯主とその世帯に属する国保加入者全員の合計所得で計算する(※世帯主が健保であっても、世帯主の所得を合計にいれる)。なので、所得の低い人と、所得がそれなりの人が同一世帯の場合、世帯を分けると所得の低い人の応益割が減額となる。地方自治体によって異なるが、2割~7割減額されるようだ。また、この減額を受けるには、確定申告が必要となる。

家族に被用者保険加入者がいる場合、被扶養者になれば国保は払わなくてすむようになる

家族の誰かが被用者保険(健保、各種共済など)に加入している場合、被扶養者が何人いても保険料に変化がないので、被扶養者になってしまえば、その分の国民健康保険料は浮くことになる。「所得税で使用する扶養」と「被用者保険で使用する扶養」は別であり、被用者保険の被扶養者の範囲の一つは、

①被保険者の直系親族、配偶者、子、孫、弟妹で、主として被保険者に生計を維持されている人

であり、世帯や同居は要件になっていない。なので、世帯分離している親が、子の被用者保険上は、被扶養者になることも可能である。

 自己負担限度額

介護保険と同様に、国民健康保険にも医療費の自己負担限度額が定まっている。70歳~74歳の老人の場合、このようになっている。年金収入が80万円未満の70歳~74歳の老人が、通常の収入のある家族と同一世帯だと月の負担限度額は入院の場合で44,000円だが、世帯分離すると15,000円で済むようになる。

同様に、入院時の食事代も、70歳~74歳の高齢者の場合、1食が260円から100円まで下がる。

国民年金と世帯分離

国民年金保険料

国民年金も所得が少なくて保険料を払うことが困難な者は、全額免除または一部免除を受けることができる。この場合の条件は、「本人・世帯主・配偶者」のいずれもが前年所得が一定以下であることである。

  • 全額免除  (扶養親族等の数+1)×35万円+22万円
  • 4分の3免除 78万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
  • 半額免除 118万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等
  • 4分の1免除 158万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等

本人の所得が上記条件を満たす場合、世帯分離によって免除を受けることができる。

 認可保育園等の保育料と世帯分離

認可保育園等の保育料も、世帯の収入別に保育料が決まっている。東京都中央区の例はこちら。なので、高収入の親(年収1,000万円)と本人夫婦(年収400万円)と子供の世帯の場合、高収入の親を世帯分離すれば、保育料が安くなる。

世帯数が増加し続ける日本

日本の人口は、近年よこばいか減少基調にあるが、世帯数は増加基調にある。単純に別居が進んでいるケースもあるのだろうが、世帯ベースで決まる諸費用を節約するための世帯分離も進んでいると思われる。周知のとおり、日本の社会保障は支出超過なのだから、住民票上の小細工で払う金額を減らすことができる状況はよくない。対策をとってほしい。

世帯数推移

参考図書

関連ツイートまとめ

日本の社会保障制度の裏側をつく@sabol_bkk氏のツイートまとめ

世帯分離を考えている人へ

私は、国が世帯分離という方法で国民が社会保険料等を節約できる状況を放置していることを好ましく思っていないが、実際にお金に困っていて、背に腹は代えられない人は世帯分離をやってみてもいいのではないかと思う。

しかし、収入を増やす努力が最もまっとうな現状改善法なので、副業やアルバイトなどで収入を増やせるように頑張っていただきたいとも思う。

コメント

  1. ももんが より:

    過去の記事にコメント失礼します。
    ふと考えて調べていたところ、こちらのブログにたどり着きました。
    日本人の悪い癖である、抜け道や意図せずできた穴を『お得!』『裏ワザ!』『節約!』などと都合よく紹介して、さも良いものの様にしがちなところを、
    しっかりと問題提起されていて良い切り口だなぁと思いました。最後まで読んでさらに良かったのが「本当に困ってる人ならやってもいいかなと思う。でも、打開する最低限の努力はすべき。」
    ほんとにその通り。
    守銭奴みたいな人たちがこぞってやったら日本は破綻するかも。笑
    日本はもっと改善してほしいですね。