六-3.ユダヤ人は資本家か革命家か

我々がユダヤ人の家を訪問したならば、その座敷の一隅に、あたかも耶蘇教徒の家にキリストの像を掲げてあるがごとく、テオドル・ヘルツル博士の肖像を掲げてあるのを、しばしば見受けるであろう。

テオドル・ヘルツルは19世紀の末葉、全世界のユダヤ民族が、改宗、同化の悪思想に感染し、全くユダヤ民族たるの気迫を失い、その民族性が消滅せんとせる際、自ら起ってシオニズムを唱導し、ユダヤ民族の国民精神を呼び起こし、今日のユダヤ人をして、ユダヤ精神に生かしめた、いわば現代におけるユダヤの救世主である。

このテオドル・ヘルツル博士は、1860年、丁度パリでアドリフ・クリミエ、モンテフォレ等のユダヤ人が、世界ユダヤ人の中央機関たる、全世界イスラエル同盟を創設した時の5月2日、ハンガリーの首都ブダペストに呱々の声をあげたのである。彼は成長するに及び文芸に志し、文芸記者として活動しているうちに、解放後におけるユダヤ民族の、憎むべき堕落の状態を観察し、決然起ってユダヤ民族の更生のため、ユダヤ国復興のため、献身的活動を開始したのである。

彼は1896年まず全世界のユダヤ人に対し、一大檄文を飛ばした。これは「ユダヤ国」(原名ユーデンスタット)という、ユダヤ人にとっては不朽の名著であり、またシオニズムの研究のためには、その原本とも言うべき有名な書籍である。本書はドイツ語で書かれたものであるが、当時18ヶ国の国語に翻訳され、全世界のユダヤ人に頒布せられたものである。

このヘルツル博士の「ユダヤ国」中に次の文句が揚げてある。

「ユダヤ人を苦しめることの不可能は、却って憎悪の念を増大し、日々反ユダヤ主義を強大ならしめた。その一原因は、吾人の中流知識階級の、過度の輩出である。この階級は下方に流出することも出来ず、また向上することもできない、換言すれば、健全なる流出と、健全なる向上の道を持たないのである。したがって吾人は下方に対しては、プロレタリヤと化して社会の覆滅者となり、あらゆる革命党の下士団を作り、これと同時に上方に対しては、恐るべき我が黄金力を増大せしむるものである」

と、また曰く、

「吾人ははけ口の無い所から、財産を増大すると同時に、社会的危険分子となる所の、中流知識階級をこしらえることになり、教育があって財産のないユダヤ人は、現今ことごとく社会主義者に落ちていく、社会的闘争がいかにしても吾人の背において行われるのは、吾人が資本家的にもまた社会主義者的にも、顕著な位置に立っているからである」

また曰く、

「私の提議のために各国政府が、ユダヤ人に対して不利を計ろうとしても、それは断じて出来ないことである。なぜならばユダヤ人の法律上の同権が一度成立したところでは、これを廃止しようとすれば直ちにあらゆるユダヤ人は、貧富を問わず革命党に投ずることになるから、同権を廃止することができない。またユダヤ人に対して、官衛が不公平なことを公開すれば、いたるところ経済的危機をもたらすに至るから、自ずから不幸を招くことを欲しない官衙は、吾人ユダヤ人に対して不利の手段に出づることができない・・・」

以上ヘルツルの檄文によって見ると、ヘルツルは大体ユダヤ人を、社会の覆滅者たる革命家と、大資本家の二種に分類している。またその必要に応じ、あらゆるユダヤ人は貧富を問わず、直ちに革命党に変化するものであると述べている。要するに世界に分散するユダヤ民族なるものは、現代ユダヤ民族の尊崇措かざるヘルツル博士が、革命家であることを、全世界人道史の上に宣言しているのである。

これ以上にユダヤ人の抱懐する革命思想について、私は今更改めて、ここに証言を挙げる必要はなかろうと思う。

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