日本をより貧しくする「公益資本主義」

自民党議員の有志が「公益資本主義」に基づいた政策等を研究するため、公益資本主義議員連盟を設立するというニュースを読んだ。

「公益資本主義」探る議連、自民有志が設立へ

公益資本主義とはいかなるものか?原丈人氏の著作を読んでみたので紹介してみたい。

全体的に原氏の主張には疑わしいものが多いので、赤字で疑問点・批判点を随時書いた。

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公益資本主義とは何か

公益資本主義とは何かというと「企業の事業を通じて、公益に貢献すること」で、より具体的に言えば、「企業の事業を通じて、その企業に関係する経営者、従業員、仕入先、顧客、株主、地域社会、環境、そして地球全体に貢献する」ような企業や資本主義のあり方だそうだ。

批判点1

法人には様々な種類があり、株式会社のように利潤を追求するものもあれば、組合員の生産と生活を向上させることが目的の協同組合もある。株式会社等より、より公益追求目的に使用できる社団法人や財団法人、NPO法人もある。なぜ株式会社まで公益追求に従事しなければならないのかわからない。

批判点2

株主以外の各種関係者も満足するような経営、利益の分配を目指せと原氏は主張するが、では企業の経営者はどのように意思決定したら良いのだろうか?仕入先が提示した価格を値切ると、仕入先の利益を損なうので値切ってはいけないのだろうか?顧客のことを考えたら、より安く商品を売るべきということになるが、では商品の値決めはどのように行えば良いのだろうか?地域社会への貢献というが、法人住民税の支払いでは貢献に不十分なのだろうか?

そもそも株主だけが出資しているのに、なぜ利益に分配は株主以外にも平等に行われるべきなのか?株主は出資する意味があるのだろうか?

原氏は中央集権的にベストの選択を企業経営者ができると考えているようだが、ハイエクを読んで、それは不可能であることを知るべきではないか?企業経営者が、未来の需給を全て予め予測して、全てのステークホルダーが満足するような値付けをすることはできない。

公益資本主義は儲かるのか?

著者によれば、「公益資本主義は、経済よりも倫理を優先するわけではありません。むしろ株主資本主義よりも経済的に優れているのです。企業の持続的成長を喚起する公益資本主義の方が、長い目で見ればはるかに儲かる、とうことです」と書いている。

批判点

本当に公益資本主義が長期的に儲かるというのであれば、原氏はそれを示すデータを出すべきである。過去に行われた経済活動の中から、公益資本主義に活動したと思われる企業を探し出して、本当にその企業の業績が他社より優れていたのか、実証する義務があるだろう。しかし原氏の著作には、いくつかのエピソードが書いてあるばかりで定量的なデータが無い。無責任ではないか?

公益資本主義企業が重視するもの

原氏によれば、公益資本主義は次の3つを重視するのだそうだ。

  1. 中長期投資 持続的成長を支えるために、中長期的な投資を行う。経営陣は、短期の利益を求めつつも、中長期的な課題にバランスよく取り組む。
  2. 社中分配 会社が上げた利益を、株主だけでなく、会社を支える社中各員に公平に分配する。こうすることで社会の格差を是正し、貧困層を減らし、層の厚い中間層をつくる。
  3. 企業家精神による改良改善 リスクをとって果敢に新しい事業に挑戦し、常に改良改善に努める。今後とはとくにテクノロジー・ベンチャーと新しい技術を活用したサービス・ベンチャーを興すエコシステムが必要になるので、本業で利益を上げながらも、リスクを取って新しい事業にチャレンジする。

※2 「社中分配」の「社中」とは、「企業に所属する人から地球環境までのすべてを企業を支える仲間」と捉えた概念なのだそうだ。

批判点1

日本の企業は、短期の利益を求めつつも中長期的な課題にバランスよく取り組んでいる。企業が開示している中期経営計画を読めば、多くの会社が短期的な利益以外だけでなく、中期的な課題にも取り組んでいることがわかる。

原氏は目先の利益を追求する企業を批判するが、しかしそういう企業があっても良いのではないか?現在考えられる短期の利益を追求することに集中する経営を許さないというのは、経営の自由を阻害し、かえって日本経済を縮小させそうである。

批判点2

企業は、株主が出資した後、経営を開始し、従業員に給料を払い、仕入先に仕入れ代金を払い、利益が出れば国や地方に税金を払う。企業経営がうまくいかなければ、出資した株主は出資の評価額がゼロになり損をする。その代わり、企業経営がうまく行けば、給料・仕入れ代金・税金等を払い終わった後の利益を受け取ることができる。

原氏が主張するように、企業の利益をステークホルダーに平等に分配しなければならないとした場合、出資したり起業しようとしたりする人間は減るだろう。あるいはまともな資本主義が存在する他国で出資や起業をするだろう。

既存の日本企業も本社を外国に移すだろう。このような簡単な未来も予測出来ないのだろうか?

なぜリスクを負って出資している株主が、リスクを負わない他のステークホルダーに利益を分配しなければならないのか意味不明である。

企業によっては、従業員持ち株会や取引先持株会を設け、それらの集団に利益が分配されるようにしている。それで十分なのではないか?

批判点3

原氏に言われなくても、企業はリスクを取って、新規事業に挑戦している。原氏はまるで、全ての企業が長期的な課題に取り組んでいなかったり、リスクテイクをしていなかったり、それらに出資するベンチャーキャピタルが存在しないかのように本を書いているが、企業は長期的な経営をしているところも多いし、バイオベンチャー企業のようにリスクテイクをしている企業も多いし、ジャフコやサムライインキュベートのようにベンチャーキャピタルは複数存在している。原氏はまず事実誤認を止めるべきだ。

公益資本主義が掲げる新しい企業価値とは

原氏によれば、公益資本主義は次の3つの指標で企業価値を測るのだそうだ。

  1. 富の分配のおける公平性 利益はすべての「社中(ステークホルダー)」に平等に分配しなければならない。
  2. 経営の持続性
  3. 事業の改良改善性

批判点1

経営の持続性について。企業の経営者は基本的に企業が長く存続できるように努力している。わざわざ政府がそれを促す必要はない。原氏は、利益の100%を超える株主還元について、こんなやり方では企業が存続できるわけがないと2014年のアマダを批判しているが、アマダはこれまで溜め込んだ内部留保を株主に還元しただけであり、未来永劫、配当性向100%を続けると宣言しているわけではない。企業の財務に余裕のある企業が配当性向を引き上げているのである。原氏は常識を持って企業活動を見つめて欲しい。

批判点2

事業の改良改善性について。企業は変化に対応できず、会社が潰れてしまうことを批判するが、資本主義社会では株主がその責を負って、会社経営を監視しているので、政府が口をだす必要はない。

※富の分配については、既に批判したので省略。

公益資本主義が掲げる新しい政策

原氏は、公益資本主義を実現するために12のルールを提案している。

  1. 「会社の公器性」と「経営者の責任」の明確化
  2. 中長期株主の優遇
  3. 「にわか株主」の排除
  4. 保有期間で税率を変える
  5. ストックオプションの廃止
  6. 新技術・新産業への投資の税金控除
  7. 株主優遇と同程度の従業員へのボーナス支給
  8. ROEに代わる新たな企業価値基準「ROC」
  9. 四半期決算の廃止
  10. 社外取締役制度の改善
  11. 時価会計原則と減損会計の見直し
  12. 日本発の新しい経済指標

批判点1

中長期株主の優遇について。原氏はアクティビストを批判している。しかし、効率的な企業経営を行わず、大株主でもないのに企業の利益をほしいままにしていた愚鈍な経営者こそ批判されるべきではないか?経営が非効率で、なおかつ株式が安値で放置されているからアクティビストに活躍の余地が生じているのである。原氏は、全ての企業経営者が聖人君子であるかのように書いているが、アクティビストに様々な要求を受けた企業は、ろくでもない経営をしてきた点には触れていない。

また、原氏は株主としての権利行使を5年以上保有しているものに限るべきと書いているが、そんなに先のことを見通すのは困難である(ただし、原氏は短期保有者が配当金とキャピタルゲインを受け取ることは否定していない)。現在の株主も、株主総会の招集や株主提案等を行う場合、6ヶ月の継続保有が必要なので、今の株主の権利がそれほど短期保有者を優遇しているとはいえないだろう。

批判点2

ストックオプションの廃止について。これまで一般的な企業は、経営者が企業価値を高めずにろくでもない経営をしてきても、役員退職金という形で役員に報いてきた。この制度では、経営者が効率的な企業経営をする動機を持てないので、ストックオプション制度が広まっているのである。ストックオプション制度を廃止すれば、また企業価値に無頓着で非効率な経営者を増やすことになるだろう。

批判点3

四半期決算の廃止について。原氏は、四半期ごとの開示を廃止すれば、企業はコストを削減して付加価値を生む活動に集中できると主張している。しかし、四半期ごとの開示程度のコストが、企業業績に影響を与える程度の企業規模ならば上場しなければ良いのではないか?

原氏はここでも、経営者を聖人君子のように考えているが、監視が緩くなれば、企業経営の規律がゆるくなるリスクを考えていない。

また、原氏は、四半期決算開示の廃止をするためのステップとして、中長期ビジョン、企業理念、非財務情報制度を開示する体制を整えることを提案しているが、それらはすでに複数の企業が開示している。原氏は、企業の開示情報を本当に読んでいるのだろうか?

原丈人氏と、彼を信奉する人たちへの提案

1.原氏は信奉者を紹介するだけでなく批判者も紹介しろ

原氏の著作を読むと、「公益資本主義の考え方は○○氏(有名人)からも賛同された」と頻繁に出て来るが、それ以上の数の有名人が批判したのでないか?賛同者だけでなく、著名な批判者と批判内容も紹介しないと経済に無知な読者に対してアンフェアではないか?

2.原丈人氏は歴史と先人の知恵に学ぶべき

結果の平等をうたった社会主義や共産主義がうまくいかなかった歴史や、社会主義経済がうまくいくわけがない理由を分析したハイエクの著作を謙虚に読むべきだ。それらを読んだ後でもうまくいく自信があるなら、いきなり日本国全体に公益資本主義を適用しようとするのではなく、小さな範囲で試してみるべきだ。そして本当に公益資本主義がうまく働くのか観察してみるべきだ。

可能であれば原氏は公益資本主義に基いて企業経営をやってみて、その結果を報告するといいだろう。

3.原丈人氏は現実の日本企業の経営活動をよく見ろ

原丈人氏の主張には事実誤認が多い。企業は中長期の視点に立っていないとか、リスクを取ろうとしていないとか、変化に対応しようとしていないとか、ベンチャーキャピタルがリスクマネーを供給していないなどの主張は誤りが多い。

実際に企業が提出している資料を読んで、日本企業のリアルな経営姿勢を観察するべきだ。

4.日本に足りていないのは経済左派ではなく小さな政府派

日本の政治家・政党には、なぜか大きな政府志向の人が多い。自民党も維新もその他のリベラル政党も大きな政府を志向している。小さな政府を志向しているのは幸福実現党くらいである。

小さな政府を志向して、有権者の選択肢を増やして欲しい。

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