根拠なき陰謀論がフェイクニュースだとは限らない

コロナウイルスが中国の研究所の開発したウイルス兵器である可能性が取り沙汰されている。しかし、当然ながら、この説は可能性を指摘したものであって、証明をしたものではない。

この経緯を要約してまとめた記事を黒井文太郎氏が執筆している。

新型ウイルス「中国が秘密開発した生物兵器」トンデモ説が駆けめぐった一部始終

デイリー・メール、デイリー・スター、ワシントン・タイムズ紙が、コロナウイルスは武漢にある研究施設で開発されたウイルス兵器ではないか、そしてそれが何らかの形で研究所から脱走(?)したのではないかと疑念を呈している。

黒井氏によれば、疑念を呈した各種記事を根拠に、いくつかの陰謀論サイトが、コロナウイルスは中国が開発した生物兵器だと断定して拡散しているらしい。

それに対して、黒井氏は、コロナウイルス=生物兵器説は、裏付けとなる情報がない根拠なき陰謀論であり、現状無視するのが賢明だと書いている。

黒井氏の記事は、コロナウイルス=生物兵器説が誕生する経緯をわかりやすくまとめた点で有益だと思うが、結論部分はおかしいのではないか?

黒井氏は、

「コロナウイルス=生物兵器説」は今のところ根拠がない→「コロナウイルス=生物兵器説」は陰謀論でありフェイクニュース

という論理展開で、「コロナウイルス=生物兵器説」を無視するように書いているが、正しい反応は、

「コロナウイルス=生物兵器説」は今のところ根拠がない→「コロナウイルス=生物兵器説」は今のところ証明されていないが、ありうる事だと念頭においておくべき

である。

Aという情報が正しいと証明されていないことは、Aという情報が嘘だと証明されたことにはならない。Aという情報が正しいと証明されていないことは、Aは嘘かもしれないし、本当かもしれないことを表すのである。

現状、「コロナウイルス=生物兵器説」は、嘘だと証明されたわけではなく、嘘かもしれないし、本当かもしれない説なのである。

中国はこれまで、あらゆる領域を戦争化してきた。超限戦、三戦という概念が中国のスタンスをよく表している。中国共産党に関しては、性悪説のレンズを通して眺めるのが、ほとんど常に妥当なのである。

黒井氏は記事のなかで、コロナウイルスは致死性が低いので、生物兵器の可能性は低いと指摘しているが、致死性が低くとも、感染性が高かったり、免疫がつかなかったりするのであれば、ウイルス兵器の候補になりうるのではないだろうか?少なくとも研究対象にはなるだろう(新型コロナウイルスは免疫が形成されず、再度感染するウイルスである可能性が指摘されている)。

一見正しく、良識的に見えるニュース記事が、おかしな論理展開で、おかしな結論を出している事があるのでこの記事を書いた。

コロナウイルスが、中国の研究所で作成された新型ウイルスだったとしても、中国政府がそれを認めて公表する可能性は低い。だから、「コロナウイルス=生物兵器説」、あるいは、「コロナウイルス=中国の研究所が作った説」は、本当だったとしても、それが本当だったとは明らかにならない可能性がある。

何かに対して確実な証明がないからといって、それが嘘だという事にはならないことに留意したい。