リチャード・ヴェルナー氏の「謎解き!平成大不況」(2003年刊)という本を読んでいる。
この本は、同氏の「虚構の終焉」という学術的な著作を一般読者向けに簡易にしたものらしい。
ヴェルナー氏は、これまでの経済学の通説では現実をうまく説明できない部分について考察し、新たな説明を与えている。
私も一応大学の経済学部を卒業したが、これまで聞いたこともないような説がたくさんあって、非常に勉強になった。
この本は電子書籍になっていないが、古本市場でプレミアがついているわけでもないので是非購読をおすすめしたい。
信用創造とGDP、バブル
ヴェルナー氏の知見で重要なのは、信用創造についてと非GDP取引についてだろう。
銀行は預金を元手に貸出をするが、それによって世の中に出回るお金の量は預かったお金の何倍にもなる。預金準備率が1%の時に顧客から100万円を預かり、99万円を貸し出すと、それが回り回って最大9900万円のお金を作り出す。これが信用創造である。
世の中に出回るお金の量が増えると、GDPとして算定される取引か、GDPとして算定されない取引(非GDP取引)を伸ばす。
GDPとして算定されない取引(非GDP取引)とは、株や不動産に対する投資などである。
だからある国が経済的に活況かどうかは、信用創造がどれくらい活況かに依って決まる。信用創造で作られた資金がまともな設備投資に向かえば、経済が成長する。信用創造で作られたお金が資産売買に向けられれば資産バブルが発生する。
信用創造の増加=GDPの増加+資産バブルの増加
(リーマンショックは本来なら住宅ローンを受けられないサブプライム層にもローンを適用したことが信用創造の増加につながり、バブルを発生させた?)
政府が経済を活気づけたいのであれば、ただお金をばらまいたり公共事業を増やしても効果はない(信用創造と結びついていないから)。また金利や企業の構造改革も経済の活況とは関係が薄いようだ。
正しかった護送船団方式と世界を脆弱化した株主の地位の向上
こうした見方に立てば、戦後の日本の経済政策は正しかったことになる。大蔵省が指導して信用創造を重要な産業に振り向けた。株式投資を一般人には広めず、企業間で株式の持ち合いをさせた。株主の影響を小さくすることで企業は長期的な視点にたった投資を行うことができた。
現代の西側社会は株主の力が強すぎるため、自社株買いのようなしょうもない使途に企業のお金が費やされている。また、株主還元強化を名目に企業の余裕資産を吐き出させているので、企業の財務は脆弱になっている。一般人にも株式投資を広めていることから、いったん株価の大幅下落が起きると、社会に対する負の影響はこれまでよりも大きくなる。
国際金融資本が主張する「正しいこと」はたいてい間違っているのである。
岸田政権下で日本は2022年5月ごろから信用創造を大強化
一般社団法人全国銀行協会が、毎月「全国銀行 預金貸出金速報」を発表しているが、ここ数年の銀行の貸出金残高はものすごく伸びている。
2007年以降の貸出金残高の前月比を見ると、これまでは前月比がマイナスになることもしばしばだった。しかし2022年以降は前月比がマイナスになることはめったになくなった。2022年以降、日本で信用創造がかなり激しく行われているようだ。
↓1年のうち貸出金残高の前月比がマイナスになった月数
年 | マイナスになった月数 |
2007年 | 6回 |
2008年 | 3回 |
2009年 | 8回 |
2010年 | 8回 |
2011年 | 7回 |
2012年 | 6回 |
2013年 | 4回 |
2014年 | 4回 |
2015年 | 4回 |
2016年 | 4回 |
2017年 | 6回 |
2018年 | 7回 |
2019年 | 5回 |
2020年 | 6回 |
2021年 | 6回 |
2022年 | 2回 |
2023年 | 1回 |
2024年 | 0回(7月まで) |
ヴェルナー氏の主張が正しいのであれば、この信用創造の活況が現代の西側世界の株高の原因の一つだろう。欧米の銀行による信用創造がどうなっているのかわからないが、円キャリートレードが活況だったのだから、日本の銀行の信用創造で生まれたお金が欧米の株価の上昇にも寄与しているに違いない。
ではなぜ2022年頃から日本の信用創造が強化されたのか?おそらく国際金融資本(またはアメリカ)の指令によるものではないだろうか?菅直人・鳩山由紀夫政権時代に貸出残高が減少していて、貸出残高の増減(信用創造の増減)になにか作為を感じるからである。信用創造を調節することで不況や好況、株高を操作できるのだから、国際金融資本やアメリカがここに口を出さないわけがない。
最近の日銀の利上げと円高は円キャリートレードを逆転させるものだから、世界の株価を下落させるきっかけとなるのだろう。ITバブル崩壊の前、リーマンショックの前にも日銀の利上げがあった。要警戒である。
コメント
お早うございます。
信用創造がバブル経済を醸成する事は分ります。信用創造が経済を活況化する事も分かります。信用創造と貨幣をドンドン供給すればバブルが発生します。だが調整弁を的確に指揮すればバブルは破裂することなく萎ませることも出来そうです。金利の操作も実体経済を左右します。日本では永らく、殆ど金利が無い時間が続きました。銀行に等預けておくことが陳腐でした。それでいて銀行はシッカリと借入者に金利を要求しました。日本が繁栄をしていた時代は、各企業間が株の持ち合いをしていた時代です。それをJudeaが強引に壊しました。そこから今の体たらくが始まった。でも考えように依っては、此れから再び日本の繁栄の時代が無いとは言えません。経済も軍事の基盤の上に立って居ます。日本の戦後の経済は差上の楼閣でした。独立国とは言えない日本では本当の繫栄はできませんね。
コメントありがとうございます。国際金融資本の力の源は、各国の中央銀行総裁に影響力を及ぼせたことにあると思います。
中央銀行は政府から独立した機関という建前にして、国際金融資本の言うがままに振る舞わせる。
信用創造を進めたり止めたりすることで景気をあやつったり、バブルを起こすことができる・・。
日本が本当に独立する日を待ち望みます。