レイモンド・ムーディ(1944年~)は3つもの霊的な新機軸を世界にもたらした男だ。
一つでも世界に新しいアイディアをもたらせられれば、それは十分すごいことだが、レイモンド・ムーディは飽き足らない探究心で3つの新アイディアを科学界・スピリチュアル界にもたらしたのである。
先日、氏の自伝「生きる/死ぬ その境界はなかった 死後生命探究40年の結論」を読んだので、それを基に氏がもたらした霊的イノベーションを紹介していきたい。
1.臨死体験
臨死体験は昔から各地に存在したが、それを体系的にとりまとめて、科学的に世界に紹介したのはレイモンド・ムーディ氏が初めてだ。
氏は哲学科の大学生だった時に、精神科医のジョージ・リッチー博士の臨死体験談を聞く。ジョージ・リッチー氏は、軍隊にいた頃に肺炎にかかり、死亡状態となった。その間、氏の精神(魂)は肉体を抜け出し、自分の肉体が霊安室に置かれるのを見た。その後、魂となって各地を飛び回った後、神々しい存在に会った。さらに人生回顧が始まり、自分の人生のすべての場面を見させられた。
リッチー氏が生き返った後、魂となって訪れた場所を探してみると、実際に存在したのだった。また、臨死体験後、リッチー氏は神との直通ラインを持ったと感じるようになり、様々な不思議な体験をするようになった。例えば、自分のそばを通り過ぎた若者を見ていると、自分の中で声が聞こえ、「あの青年は殺人を犯そうとしている!」と教えられた。
実際にその青年に話しかけてみると、ひどい扱いをした知人に報復に行く途中だったそうで、リッチー氏はそれを思いとどまらせた・・。
リッチー博士の話を聞いた事をきっかけに、レイモンド・ムーディは臨死体験談を収集するようになった。哲学科の大学院を卒業し、哲学の講師として大学で教えるようになったが、臨死体験についてもっと知見を深めるため、医学校に入学した。
そして医学部の学生時代に臨死体験の研究書「ライフ・アフター・ライフ」(邦題「かいま見た死後の世界」)を出版し、本はベストセラーとなった。
ムーディ氏は臨死体験の要素として、以下の14の要素を挙げている。
- 言語に絶する体験
- 死亡診断が聞こえる
- 安らぎの感覚を味わう
- 雑音が聞こえる
- 暗い空間を通過する
- 体外離脱する
- 亡き人々に出会う
- 光の生命体に出会う
- 人生を回顧する
- 何らかの境界に達する
- 生き返る
- 体験を語る
- 人生観が前向きになる
- 死に対する見方が変わる
ムーディ氏の本は多くの国に翻訳され、世界各地で臨死体験の研究が行われるようになった。
また、ムーディ氏が発見した技術ではないが、当時、催眠術をかけると一部の人は過去世の記憶を取り戻すことがわかっていた。ムーディ氏は生まれ変わりを信じていなかったが、実際に過去世療法を受けてみると、9つの過去世を思い返したのだった。
そこでムーディ氏も過去世研究を開始し、退行催眠を人々に施して調査を始めた。氏によれば、退行体験の特徴には以下の要素があるそうだ。
- 過去世経験の多くは視覚的である
- 出来事を受身的に経験する
- 光景に懐かしさを覚える
- どの人が自分かわかる
- 過去世の感情の中に置かれる
- 過去世の光景は自分の両目からのものと、第三者的視点の両方になる
- 退行体験はときに現世の問題を反映する
- 退行経験により精神の安定が期待できる
- 退行経験により肉体の病が改善されることもある
- 退行は時間的順序よりも、それが持つ意味に従って進んでいく
- 退行は繰り返すことで、よりしやすくなる(退行催眠を何度も経験すると、より簡単に深く過去世体験ができるようになる)
- 過去世のほとんどは平凡である
2.死者を呼び出す精神療法「スクライング」
ムーディ氏は、古本屋でたまたま購入したノースコート・トマスという学者の「水晶占い」(1900年刊行)という本を読んだ。それがきっかけとなって、古代の人々が水晶や鏡、レンズ、水等を使って霊と交信をしていた事を知るようになり、勉強を続けた。
この光学特性を持つ物質を使って霊的な幻視を得たり、霊を呼び出す技法をスクライングと呼ぶ。ムーディ氏は、この手法を一種の科学として研究できないか試してみるようになった。
氏は、まず自分自身でスクライングを試してみた。暗い部屋に鏡を置き、母方の祖母(故人)を思いながら、鏡の中を見続けるのである。2時間ほど鏡を見たが、何も起こらず、階下の部屋に降りて、横になったところ、なんと父方の祖母(故人)が部屋に入ってきた。そして思念によって、父方の祖母を会話ができたのである。
氏は、続いて10人の人々に声をかけ、スクライングを体験してもらった。成熟し、精神的に安定していて、オカルト好きではない人達である。
すると10人中、5人が亡き親族の霊を見た。故人との再会は、彼らに精神的な癒やしを与えたことから、ムーディ氏はスクライングを精神療法の一つとして提唱している(しかし、博士の技法では、一日に一人程度しかスクライングを体験させられないので、ビジネスとしては厳しいようだ)。
3.臨死共有体験
もう一つムーディ氏が発掘した概念が、臨死共有体験(shared-death experience)である。死にゆく人に付き添っている健常状態の人間が、臨死体験と似たような体験をすることを指す。
死にゆく人に付き添っている健康な人が、体外離脱をして今まさに死んだ人の霊を見たり、空間の裂け目を見たり(その裂け目から先に死んでいる人が迎えに来たりする)、故人の人生回顧を共に見たりするのである。
臨死共有体験には、臨死体験と似たような要素が多い。トンネルをくぐり抜ける体験、神秘的な光を見る体験、体外離脱、人生観の変化などである。しかし、下記の要素が臨死体験と違う際立った要素なのだそうだ。
- 神秘的な音楽が聞こえる
- 空間が変容して見える
- 周囲の人々も神秘的な光を見る
- 霧のようなものを見る(死にゆく人の体から、霧、白い煙、蒸気のようなものが立ち上がるのを見る)
臨死体験は、死に瀕した脳が見せる幻覚だという説があるが、臨死共有体験は、健常者が体験する事柄であるから、死後の世界の存在をより強く示唆するものだろう。
順調なことばかりではなかったレイモンド・ムーディ氏の人生
臨死体験、スクライング、臨死共有体験と3つもの新概念を打ち立てたレイモンド・ムーディ氏だが、氏の人生は順調とは言い難い。
まず、ムーディ氏は甲状腺の機能低下症だった。氏の父や叔父、そして氏自身が医者であるのに、甲状腺の病を持っていることに遅くまで気が付かなったのである。甲状腺の機能低下によって、氏は常に寒気を感じ、髪の毛は抜け、喉に違和感を覚え、手が痛んだ。甲状腺の機能低下は、うつ状態に氏を追い込んだ。
また、ライフ・アフター・ライフには批判本が書かれ、家族の裏切りもあり、離婚をすることになった。
1990年に、新たな本を出版するために宣伝ツアーをしたが、甲状腺の機能低下と疲労がたたって、うつ状態になり、鎮痛剤を大量に飲んで自殺を図った。なんとか一命をとりとめたが、氏は死にかけた短い間に臨死体験をしている。
こうした体験を経て後、1992年(48歳)になってようやく氏の症状が甲状腺機能低下によるものだと診断された。甲状腺ホルモン値を上げるための治療をし、ようやく氏の体調はましになったが、スクライングについての講演旅行に出た後、また疲れ果ててしまった。
そしてうつ状態で父親にスクライングの説明をすると、気が狂っていると判断され、精神病院に入院させられてしまうのである。ムーディ氏の父親は、ムーディ氏の研究にほとんど納得していなかったようだ。
ムーディ氏の人生は、霊的・心理学的・医学的に偉大な発見をしつつも、さまざまな困難にぶつかる波乱万丈なもので、氏の自伝は読者をまったく退屈させない。おすすめである。