年を取ること、死に近づいていくのは安らぎだ

一般に現代社会では、年をとることは好ましいと思われていない。

年をとるにつれて、外見が衰え、頭脳が衰え、肉体機能が衰える。蓄積された不摂生等による発病も増える。

しかし、死後の世界を信じる人達にとって、加齢は安らぎである。死は形を変えて、魂が存続する出来事に過ぎず、我々は制限の多い肉体の桎梏から脱して、いわゆるあの世に居場所を移すのである。おそらく、あの世に到着してしばらくは休息できるにちがいない。

年をとると、テストステロンなどの男性ホルモンが減少するからか、腹を立てたり喧嘩をすることも減っていく。胃腸がついていかないから、飲食に関する欲望もほどほどになる。性欲は人それぞれとはいえ、一般的には減少し、性に心を悩まされることもなくなっていく。体の衰えが様々な欲望について諦めをうながし、執着心を薄くさせてくれる。これはありがたいことではないか?

実社会のことに関しても、それなりの知識が蓄積されているから、些事に心を動かされなくなる。

若い頃にはあった様々な機会も過ぎ去っているので、結婚や経済的成功などが、たとえ思うようにならなかったとしても、自然と諦めがつくようになっていく。

日、一日と目立った悪をせず、ささやかながらも善行を成せたと信じて日を過ごし、死がやってくるのを待つのは心安らぐものだ。

こうした感覚は、当然、若い頃にはわからなかった。

今から若い頃に戻って、もう一度、10代、20代からやり直したいかと言えば、全くやり直したくない。前世のカルマのせいなのかなんなのか、若い頃には苦しい出来事が多くあった。*そして恋愛、仕事など様々なことに関して成功したいという欲望があったから、なおさら苦しかった。

若い頃には若い頃なりの喜びがある。けれども安らぎは少なく、喜びが苛烈なのと同じくらい苦しみも苛烈だった。

今では、加齢が自然に欲望・執着を薄めてくれることをありがたく感じる。毎日を過怠なく過ごし、僅かでも良いことをして過ごせれば、やはりありがたく思う。

↓関係ないが小山ゆう先生の旧作がkindle unlimitedに複数入っている。サムライ数馬も初めて読んだが、とても面白かった。小山先生の漫画が昔のものでも面白いのは、人間の普遍的な感情に響くからだろう。

*リチャード・ロールというキリスト教の牧師は、人生において一般的な成功(経済的成功、名誉、結婚、家族形成など)を収めた後に、人の心を転回させるような躓きがやってきて、人は内面や神性に目を向けるようになる(事が多い)と主張している。