大収奪、第3章Security Entitlement

第3章 Security Entitlement 証券の権利

世界の歴史上最大の収奪劇は概念の発明によって可能となった。それは嘘、まやかしなのだが、Security Entitlement(証券の権利)という概念である。

4世紀以上前に証券が誕生して以来、有価証券は法の下で個人の資産として認められてきた。しかし、既にそうでないということはあなたに衝撃を与えるかもしれない。状況を説明するために、まずは例え話から始めたい。

あなたは全額現金で新車を買った。ローンを一切使っていないし、あなたは新車が自分のものだと信じている。しかし、新しく発明された法的な概念によって、車の販売会社はあなたの車を自分の資産として扱うことが許されている。そして販売会社は融資を受けるために、あなたの車を担保として登録する。販売会社が倒産した時、あなたの車とそれにまつわる一切は、法的な審査なしに販売会社の債権者に担保として取られてしまう。

これは実際のあなたの車について話しているのではない。状況を説明するための例え話である。あなたは何かを所有していると信じ込まされているが、誰かがあなたの資産を密かに担保として管理している。権力者たちは、破産が起きれば、その担保を即座に没収できるような法的な妥当性を確立している。この場合の破産とは、あなたの破産ではなく、あなたの資産を密かに管理している主体の破産である。

こんなことはありえるとは思えないだろう。しかし、これは世界中の金融資産で実行可能な話なのだ。反駁の余地なく。

人々が信託会社や年金、投資ファンドで保有していることになっている全ての証券は、デリバティブ複合体を支える担保として差し出されているが、デリバティブ複合体は世界経済の規模と比べて巨大であるため、十分な資金が不足している。

担保による裏付けがあるという幻想は、担保がまた何かの担保となるような危うい連鎖の中でできあがっている。こうした状況を知っている債権者こそが、顧客の資産を担保として扱えるように触手を伸ばしたのだ。巨大なバブルが弾けた時に担保としてあったはずのものが大規模に吹き飛ぶのは確実である。なので担保没収の実効性は既に確立されている。担保とされているものが法的な係争無しに取得されるように法的な正当性が確立されているのだ。自分の証券は隔離保存されていると説明を受けていたような洗練されたプロの投資家であっても保護されることはない。

我々の財産権を破壊する目的で数十年にわたって、洗練された計画と実行が成し遂げられてきた。それはまず、アメリカの全ての州で統一商法(UCC)が改正されたことから始まった。長年にわたって静かに改正は行われた。重要なポイントは以下の通り。

・証券の所有権は、新しい法的な概念「security entitlement」に置き換えられた。この概念下においては、証券会社が破産した場合に投資家は従来と比べて弱い立場となる。

・全ての証券は分離されていないプール形式で保存される。担保されている証券も、それが禁じられている証券も同一のプールで保存される。

・全ての口座保有者(証券を担保として使うことを制限している者も含む)は、法律によって残余財産の比例配分のみを受け取ることになっている。

・Re-vindication(不当に取得または押収された財産または資産を取り戻す行為。例えば、破産時に没収された自分の証券を取り戻すこと)は絶対に禁止されている。

・証券会社は自己勘定取引や資金借り入れのために、プールされた証券を合法的に借用できる。

・Safe Harbor制度により、担保債権者はプールされた証券に対して、証券口座保有者よりも優先された権利を持つ。

・プールされた証券に対する担保債権者の優先権は裁判所に既に支持されている。

証券会社が制限なくプールされた証券を借用することは法的に認められている。これは「自助(self helf)」と呼ばれている。これらの目的は全ての有価証券を担保として利用できるようにすることだ。これは推測ではない。これを陰謀論として片付けるのは間違いだ。文書は反駁の余地の無いものだ。2004年4月、欧州委員会の域内市場サービス局長は次のように提案した。

EUにおける清算・決済にかかる法的な不確実性の問題を解決するために法的専門家のグループを設立するべきだ。

この提案がLegal Certainty Groupの設立につながった。法的不確実性というとなにか悪いもののように聞こえ、法的確実性というと良いもののように聞こえる。しかし、この集団が解決しようとした法的確実性とは、信託会社が破産した際に、担保債権者が即座に顧客の資産を収奪できるようにするための法的確実性なのである。

2006年3月、NY連銀の副法務顧問は、Legal Certainty Groupの質問に詳細な回答を与えた。以下のその回答からの抜粋であり、本書の付録には全文が掲載されている。

(中略)

次の世界的な金融恐慌が起きた場合、担保債権者がプールされた証券に対して優先権を行使した後に、我々にどれだけ資金を取り戻す機会が残されているのだろうか?

椅子取りゲームが起こる。音楽が止まった時、あなたの椅子はない。そのようにデザインされているのだ。

誰の利益になるというのか?明らかに一般市民の利益のためではない。一般市民はこれらの欺瞞によって自国政府に裏切られ、財産権を失ってしまった。

Security Entitlement等に関する法制化は、「市場参加者」による担保の要求に基づいて行われた。「市場参加者」とはあなたや私のことではない。「市場参加者」は政府を操る力を持つ強力な債権者の婉曲表現である。彼らは世界で法的正当性を確立するために長い間活動してきた。